サテライトオフィス運営 つながりの場をつくり
ふるさとに貢献したい

御坊市の特産品
スターチスをビジネス化

御坊市の特産品のひとつ、スターチス。和歌山県はスターチスの生産量が日本一で、その多くが御坊市で栽培されている。きれいなピンクのスターチスを指さし「これ実は花じゃないんです、ガクなんですよ」と教えてくれたのは、スターチス農家に生まれた上野和人さんだ。

大阪府門真市にある自宅から週1回のペースで、ご自身の実家がある御坊市に通っている。関西を中心にフラワーショップ「生花青果」「flowerlaboratory」を展開するフロリスト・コロナの代表として小売業を行いながら、約7年前に農業法人であるコロナ農業生産株式会社を設立。御坊市でスターチスを育て、それを小売店で販売するまでのルートを確立した。

アンチ農家からの脱却
社会に出て見えた可能性

幼い頃から週末は農作業をお手伝い。両親は夜遅くまで働いているのに、働いた分だけの見返りが感じられない。そんな状況に「アンチ農家でしたね」と振り返る。将来的には家業を継がないといけない、でも継ぎたくない。複雑な想いを抱えながら、園芸や花の小売りに関わる仕事を続けてきた上野さん。

「農家が儲からないのは売価決定権がないから。いいものを作ったからといって、高い値段で売れるわけではない」と感じていた上野さん。自らが農業法人を立ち上げ売価決定権を持てば、フロリスト・コロナで買い取って販売できると、会社を設立。小売り側が個々の生産者から直接買う仕組みを作れば売価が固定され、農家が潤い、小売り側も仕入れ先の安定化につながる。農家と花屋、その両方の実情を知っている上野さんだからこそ確立できたビジネスモデルだ。

次世代につなげたい
農家の息子としての強み

地方へ移住し農業をはじめる。今、注目されるライフスタイルだが、実は新規参入のハードルは高い。その理由は、田畑の売買は農地法による規制があるからだ。だが上野さんは家業が農家なため、土地の権利を持っている。それこそが自分の強みだと気付いたのだそう。

上野さんいわく、店舗を構えて商売をすると、都会だと売上の20～30%が家賃に充てられる。でも農業法人は一反（300坪程度）を借りても年間1万2000円ほどしかかからない。1反あれば約100万円の売り上げを見込めるため、家賃比率はわずか1%程度なのだ。「僕らの親世代は、子どもに農家を継いでほしいとはなかなか言わない。でも御坊は農業に適した温暖な気候。農地もたくさんある。後継ぎがいないがゆえに田畑が減るのはもったいないですよね」と上野さん。次世代へつなげるためにも、農業の発展に尽力している。

スーパーと生産者をつなぎ
御坊市の農業を活性化させたい

「自社が潤うだけでは意味がない。もっと御坊の農業を発展させたい」と願う上野さんは、生まれ育った御坊市名田町にサテライトオフィスを開設。国が推進するデジタル田園都市国家構想交付金を利用し、2023年3月に完成したばかりだ。本格運用は4月からとのこと。

入居するのはイオングループの株式会社光洋、切り花市場の大手・なにわ花いちばなど。上野さんは、大阪という商圏と御坊市の農家をつなぐパイプ役を担う。「今、生産者と直接取引したいスーパーや量販店は多いので、これらをマッチングさせたいんです。和歌山は大阪という一大消費マーケットまで車で2時間、物流の面でも見ても有利なこの立地を活かさないのはもったいない」と上野さん。サテライトオフィスはドロップイン（一時利用）も可能なので、新しいビジネスが広がる拠点になればと期待を寄せる。

立地は国道42号線沿い、近くには観光農園ひだか、和歌山工業高等専門学校があり、あらゆる世代が行き交う場所。「ここが御坊の首都になる、それが今の夢ですね」。

大阪の自宅から御坊に向かう際は、子どもも連れて約1時間半のドライブ気分を味わいます。御坊では、実家の近所にある海でたくさん捕れる小さい貝・イソモン狩り。味噌煮にすると美味しいですよ。